問題を前にして、手が止まってしまう子がいます。

手が止まる子と止まらない子の違いは、頭の中だけで考える子か、とりあえず書く子か、です。

頭の中だけで考えると、いろいろなことを、ずっと覚えておかなければなりません。そうすると、考える作業に力を全部使えなくなります。私はこれを「メモリの無駄遣い」と呼んでいます。何かしら書いた方が、絶対にいいです。

この記事では、頭の中に一度に置いておける量を調べた研究のまとめと、書くことで頭の負担を外に出す研究のまとめを紹介して、そのうえで、うちで教えている書き出し方をお話しします。

最初の一手は、分かっている事実を書くこと

手が止まったら、最初にやってほしいのは次の3つです。

手が止まったら、まず書く
・分かっている事実を書く
・自分の考えの断片を書き出す(まとまっていなくてかまいません)
・キーワードに印をつける

とくに効くのは、数学の文章題、英語のライティング、国語のまとめる問題です。

たとえば、こんな文章題です。

例
ある道を、行きは時速4km、帰りは時速6kmで歩いたら、往復で5時間かかりました。この道の道のりは何kmですか。

頭の中だけで解こうとすると、「行きは時速4km」「帰りは時速6km」「往復で5時間」「行きと帰りの道のりは同じ」「時間=道のり÷速さ」を、全部同時に覚えておかなければなりません。書いてしまえば、それを覚えておく必要はなくなり、考えることに集中できます。

書き出しの例(行きと帰りの問題)
ノートの書き出しの例。分かっている事実:行き 時速4km、帰り 時速6km、往復で5時間、道のりは行きも帰りも同じ。求めるもの:道のり(x km とする)。考えのかけら:時間=道のり÷速さ。行きは x÷4 時間、帰りは x÷6 時間。式:x/4+x/6=5。「往復」「同じ」「何km」に印。
例として作った書き出しです。

道のりを x km とすると、行きの時間は x/4 時間、帰りの時間は x/6 時間で、合わせて5時間なので、x/4+x/6=5 です。両辺を12倍して 3x+2x=60、x=12。答えは12kmです(行き3時間、帰り2時間で、合わせて5時間)。

研究①:頭の中に一度に置いておけるのは、だいたい4つ

アメリカのミズーリ大学のカウワンは、短い時間、頭の中に置いておける量についての、たくさんの実験をまとめて考察しました(2001年)。

頭の中に置ける数は「7つくらい」と言われることがあります。1956年にミラーが「7±2」という数を挙げたからです。カウワンは、ミラーの7はおおよその目安として挙げられたものだったと書いたうえで、くり返し唱えたり、いくつかをまとめて覚えたりできないようにして調べると、大人が一度に置いておけるのは平均で3〜5つ(だいたい4つ)の「かたまり」で、人によって2つくらいから6つくらいまで幅がある、と結論づけています。

たとえば、色のついた四角の実験

カウワンが紹介している実験の1つ(ラックとフォーゲルの実験)では、1〜12個の小さな色のついた四角を0.1秒だけ見せ、0.9秒あけてもう一度見せて、どれか1つの色が変わったかどうかを答えてもらいました。四角が1〜3個ならほぼ完璧に答えられましたが、4個で少し落ち、それより多くなると大きく落ちました。

数えるのは「かたまり」

ここでいう「1つ」は、文字や数字1つではなく、ひとまとまりで扱えるもの(かたまり)です。カウワンは、電話番号が3けたと4けたに区切られているのも偶然ではなく、一度に頭に置いておける量を表しているのだろう、と書いています。

読むときの注意
・「4つ」は、くり返し唱えたり、まとめて覚えたりできないように条件をそろえた実験での数です。ふだんは、まとめ方しだいで、もっと多くのことを扱えます。
・カウワンは、覚えておくことと考えることは、同じ容量を使うと考えています。一方で、「何かを覚えておきながら考えても、思われているほどは考える作業がじゃまされない」という研究があることも紹介しています(覚えていることと考えることを、同時に注意の中心に置く必要はないから、と説明しています)。
・この論文は、たくさんの実験をまとめて考察したもので、勉強の問題を解く場面を直接調べたものではありません。論文のあとには、ほかの研究者からの反論も含むコメントがついています。

研究②:書くことは、頭の負担を外に出すこと

カナダのウォータールー大学のリスコと、イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのギルバートは、「認知的オフロード」についての研究をまとめました(2016年)。認知的オフロードとは、体を動かしたり、身の回りの物を使ったりして、頭の負担を減らすことです。かたむいた文字を読むときに首をかたむける、予定をスマートフォンに知らせてもらう、メモに書く、図をかく、といったことです。

二人は、頭の中で一度に扱える量には限りがあることを挙げたうえで、オフロードはその限りを補うもので、見る・覚える・計算する・数える・空間の問題を考える、といった、いろいろな場面で成績を上げることが示されている、とまとめています。また、頭の負担が大きくなるほど、人は自分からオフロードするようになることも、いろいろな課題で見られています。

外に出すと、覚えなくなることもある

ただし、二人はオフロードの「代償」にも触れています。

たとえば、覚えるように言われた文をパソコンに打ち込む実験では、打ち込んだ文が「あとで消される」と思っていた人の方が、「保存される」と思っていた人より、よく覚えていました。また、カーナビの案内に従って運転した人は、案内なしの人よりうまく目的地に着けましたが、道の景色をあまり覚えておらず、2回目に案内なしで同じ道を運転すると、うまくいきませんでした。

そのうえで二人は、勉強でオフロードが役に立つのは、外に出す負担が、その勉強の目的にとって必要のない負担である場合だ、と書いています。また、オフロードで浮いた力を、ほかのことではなく、考えることに使えるかどうかも大事だ、としています。

読むときの注意
・これも、いろいろな研究をまとめた論文です。中学生が問題を解くときに、書く・書かないで点数がどう変わるかを直接調べたものではありません。
・覚えることそのものが目的のときに、書いたことで安心してしまうと、覚えないままになるおそれがあります(上の「保存される」の実験)。

うちでやっていること

考えるために、書く

手が止まったら、分かっている事実を書き、考えの断片を書き出し、キーワードに印をつけてもらいます。研究②の言葉でいえば、問題に書いてある事実をずっと覚えておくことは、その問題を解くという目的にとって、必要のない負担です。書いて外に出して、空いた頭を考えることに使います。

ノートは、とって終わりではない

ノートをきれいにまとめることが、目的になってしまう子はよくいます。でも、ノートはメモです。とって終わりではありません。仕事の手順のメモと同じで、それを元に実際にやってみて、はじめて身につきます。研究②の「代償」の話と同じで、書いたことで安心して終わると、身につきません。

うちの指導では、自分の言葉で、気づいたことや分かったことを書いてもらっています。学校のノートでも、板書に加えて、こういうことを書いてほしいと思っています。

何が分からないかも、言葉にする

書いても手が止まったままのときは、何が分からないのかを、自分で説明してもらいます。最初は、引っかかりそうなところを1つずつ聞いていきます。くわしくは、【指導の考え方④】「分かった?」の「うん」はあてにならないに書きました。

手が止まってしまうときは

「問題を前にすると、手が止まってしまう」「白紙のまま、時間が過ぎてしまう」というお子さんがいたら、学年と教科をお問い合わせから教えていただければ、うちでの書き出し方をお伝えします。

参考文献

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この記事を書いた人:六田 佳志(ろっく先生)

福岡の個人家庭教師・学習アプリ制作者。生徒の「どこでつまずいたか」を毎週の指導で見てきた実例をもとに、テストで実際に失点しやすいポイントだけを解説しています。指導実例はT君の合格ストーリー、プロフィール詳細は運営者情報へ。